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秋田地方裁判所 昭和38年(行)1号 判決

原告 原田利良

被告 国

訴訟代理人 青木康 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「原告が国立秋田大学の学生の地位にあること確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一、原告は昭和二四年三月国立秋田鉱山専門学校を卒業し、同三四年四月国立秋田大学鉱山学部燃料化学科第二年次に編入学を許可された同大学の学生であるが、同大学学長渡辺万次郎より同三五年三月一日付で学校教育法施行規則第六七条、秋田大学通則第二条第二号(成業の見込がないと認めたとき)に基き除籍処分に付せられた。その理由とするところは、原告は欠席多く、そのうえ同三四年六月一日から東京都干代田区平河町二丁目六番地帝石テルナイト工業株式会社に入社するなど同学所定の教育課程を履習しないというにある。

二、しかし、右除籍処分は次のような理由で無効である。即ち

(一)  秋田大学鉱山学部における講義内容は秋田鉱山専門学校当時のそれと殆んど同一なので原告は担当教官の了解を得て若干授業を欠席した程度にとどまり、その欠席日数は他の一般学生に比較し、特に顕著なものでない。仮に特定教科の年次における受講日数が不足していたとしても、秋田大学通則第一五条によれば、同大学学生は修業年限の二倍まで在学でき、その期間内に特定教科の履修をすれは良いから、原告の欠席日数が多いというだけで、原告に「成業の見込がない」というは当らない。

(二)  また、原告が同三四年七月一一日から同月二五日までの短期間前記帝石テルナイト工業株式会社酒田工場に勤務したことは事実である。しかし学生が夏期休暇期間中若干の労務に服することは広く行われている現象であるから、右事実があるからといつて、原告に「成業の見込がない」ということはできない。

(三)  さらに、原告はいまだに同大学学長の除籍処分の告知書を受領していない。

右除籍処分は以上のような瑕疵があり、しかもその瑕疵は重大かつ明白なものであるから、当然無効である。よつて、原告が同大学の学生の地位にあることの確認を求める、と述べ、

証拠(中略)

理由

一、原告が昭和二四年三月国立秋田鉱山専門学校を卒業し、昭和三四年四月国立秋田大学鉱山学部燃料化学科第二年次に編入学を許可された同大学の学生であつたこと及び同大学学長渡辺万次郎が原告をその主張の日に、主張の理由で除籍処分に付したことは当事者間に争いがない。

二、そこで右除籍処分に原告の主張するような無効原因があるか否かにつき判断する。(中略)

各証言を総合すると、原告の在学中における授業の出席状況は極めて悪く、入学後除籍処分を受けるまでの約一カ年のうち三分の二以上も欠席したほどであつたこと、このため大学当局は補導の必要から学部長名義で学内に掲示し、又は届出の原告の下宿先にあて書面を以て再三原告の出頭方を通達したり、或は事務係らを通じて原告との連絡を図つたけれども所在がわからなかつたこと、その間原告は大学当局に秘し昭和三四年六月一日から帝石テルナイト工業株式会社へ正式に入社し、同社酒田工場に勤務したが、入社そうそうから無断欠勤が多く、その上東大工学部応用化学科研究助手の経歴を詐称した事実も発覚し、二ケ月余り勤務しただけで懲戒解雇されたこと、その後右会社からの照会で以上の事実が大学当局に判明したため、同大学では右事実を重視し、原告の前記行為は学生の本分に反するばかりでなく、同大学と縁故の深い右会社に迷惑をかけ、引いては同大学の社会的信用を失墜するものであることを考慮し、原告の出頭方を求め、事実を究明したが、原告において何等の反省を示さなかつたこと、そこで同大学鉱山学部では翌三五年二月二五日原告の処分問題について教授会を開き、原告の前記行為は同大学通則第三〇条の懲戒退学の事由にも該当するが、特に原告の将来を考慮し、原告から任意退学の届出をするよう勧告し、若し之に応じない場合には秋田大学通則第二二条第二号により除籍処分に付することに出席教授全員一致の議決がなされたこと。ところが、原告は右勧告を受けたのにかかわらず定められた二月二九日(その後三月四日まで延期された)までに退学届を提出しなかつたので、同大学学長は原告の前記行為を秋田大学通則第二二条第二号の「成業の見込がない場合」にあたるものと認め昭和三五年三月一日付で原告を除籍処分に付し、その告知書を同月二九日原告宛に郵送し、その頃右告知書は原告に送達されたが、折返し原告より返戻された事実が認められる。以上認定を左右するに足る証拠はない。原告は担当教官の了解を得て若干授業を欠席したがその欠席日数は他の学生に比し特に顕著でないとか、帝石テルナイト工業株式会社就職の件は夏季休暇を利用した一時的なものであると主張するが、これを認め得る証拠はなにもない。

しかして、学長が学生の行為を捉えて除籍処分に付するか否かは、当該行為の軽重、本人の性格、平素の行状、その行為の他の学生に与える影響等その他諸般の事情を考慮し学長が教育的見地から自由に決め得ることであり、秋田大学学長がその必要あるものと認め、学則第二二条より原告を除籍処分に付したことは前記認定の諸事実に照し社会観念上著しく妥当性を欠くものとは認められぬから、本件除籍処分に瑕疵があるという原告の主張は理由がない。

従つて、本件除籍処分の無効を主張し学生たる身分の確認を求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法第八九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 斎川貞造 篠原曜彦 根本隆)

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